糖尿病の治療
1. 食事療法と運動療法
糖尿病治療の基本は、薬だけに頼るのではなく、日々の生活習慣を見直すことです。特に、食事療法と運動療法は、血糖コントロールを良好に保ち、合併症の発症・進行を防ぐ上で最も重要な柱となります。
食事療法
食事療法は、単に食事の量を減らすことではありません。適切なエネルギー量の中で、栄養バランスの取れた食事を規則正しく摂ることが重要です。具体的には、以下のポイントを意識しましょう。
適正なエネルギー摂取
患者様の活動量、年齢、性別、標準体重、合併症の有無などを考慮し、過不足のない適切なエネルギー量を設定します。極端なカロリー制限は、栄養不足や筋肉量の減少を招く可能性があるため、個々の状況に合わせたエネルギー量を設定することが重要です。
栄養バランスの最適化
食事においては、糖質、脂質、たんぱく質を適切な比率で摂取し、ビタミン、ミネラル、食物繊維も十分に確保することが重要です。糖質は、血糖値を上昇させやすい栄養素ではありますが、重要なエネルギー源でもあるため、GI値(グリセミックインデックス)の低い食品を選び、食物繊維と共に摂取することで、食後血糖の上昇を緩やかにすることが推奨されます。脂質については、質の良い脂質(不飽和脂肪酸)を適量摂取し、飽和脂肪酸やトランス脂肪酸の摂取は控えめにすることが望ましいです。たんぱく質は、筋肉量の維持や臓器機能の維持に不可欠な栄養素ですが、腎機能が低下している場合は、摂取量を調整する必要があります。
規則正しい食習慣
1日3食、規則正しく食事を摂り、欠食やまとめ食いは避け、間食は極力控えめにします。食事の時間や量を一定にすることで、血糖値の変動を抑えることができます。
当院では、管理栄養士が在籍しており、患者様一人ひとりのライフスタイルや食習慣に合わせた、具体的な食事の工夫や献立例を丁寧にアドバイスいたします。無理なく継続できる食事療法を一緒に考えていきましょう。
運動療法
運動療法は、ブドウ糖の筋肉への取り込みを促進し、インスリンの働きを改善(インスリン抵抗性の改善)することで血糖値を下げる効果があります。また、肥満の解消やストレスの軽減、心肺機能の向上にもつながります。
有酸素運動
運動療法では、ウォーキング、ジョギング、水泳、自転車、水中歩行などの有酸素運動が、インスリンの感受性を高め、血糖値を下げるだけでなく、心肺機能を改善し、動脈硬化を予防する効果があります。運動強度としては、中等度の運動強度(少し息が弾む程度)が推奨され、運動時間は1回20~60分、1日合計30分以上、週3日以上行うことが目標となります。
レジスタンス運動(筋力トレーニング)
レジスタンス運動(筋力トレーニング)は、筋肉量を増やすことで基礎代謝が上がり、血糖値の改善につながるとともに、身体機能の維持・向上や転倒予防などの効果も期待できます。運動強度としては、ややきついと感じる程度の負荷で行い、運動頻度としては週2~3回程度、大腿四頭筋、ハムストリングス、腹筋、背筋などの主要な筋肉群を対象に行うことが推奨されます。
運動を始める際は、ご自身の体力や健康状態に合わせて無理のない範囲で行うことが大切です。当院では、看護師が患者様の状況に応じた運動のアドバイスを行い、安全に運動を継続できるようサポートいたします。
2. 内服薬と注射のGLP‐1受容体作動薬の治療
糖尿病には主に2つのタイプがあります。
内服薬の治療
現在、様々な作用機序を持つ糖尿病内服薬が開発されており、患者様の病状や体質に応じて適切に選択されます。大きく「インスリン抵抗性改善薬」と「インスリン分泌促進薬」の2つの分類にわけられます。
インスリン抵抗性改善薬
- ビグアナイド薬(メトホルミンなど)
主に肝臓での糖の生産を抑え、インスリンの効きを良くすることで血糖値を下げます。血糖降下作用が安定しており、体重増加を抑える効果も期待できるため、特に肥満型の2型糖尿病の方に適しています。消化器症状(腹痛、下痢など)が出ることがあり、腎機能に応じた用量調整が必要です。 - チアゾリジン薬(ピオグリタゾンなど)
インスリンの効果を高めることで血糖値を改善します。血糖降下作用は安定していますが、浮腫や体重増加、心不全のリスクがあり、当院では使用を慎重に判断しています。
インスリン分泌促進薬
- DPP-4阻害薬
体内でインスリン分泌を促すホルモン「インクレチン」の分解を抑え、血糖値に応じてインスリン分泌を促進します。血糖値が高い時にのみ作用するため、低血糖のリスクが比較的低いのが特徴です。 - SGLT2阻害薬
腎臓で糖が再吸収されるのを抑え、余分な糖を尿として体外に排泄することで血糖値を下げます。血糖降下作用に加えて、体重減少、心臓や腎臓を保護する効果も注目されています。以前は高齢者への使用が心配されることもありましたが、患者さんの状態をしっかり把握した上で良い適応となるケースが増えています。
内服薬のポイント
当院では、以下の点を重視して、最適な薬物治療を提供しています。
- 低血糖のリスク
低血糖は、めまいや冷や汗などの症状を引き起こし、重症化すると意識障害に至る危険性もあります。患者様の生活スタイルや体質に合わせて、低血糖のリスクを最小限に抑える薬剤選択を行います。 - 体重への影響
薬剤によっては体重増加や減少をもたらすものがあります。患者様の体格や体重コントロールの必要性を考慮し、適切な薬剤を選定します。 - 腎機能への影響
糖尿病は腎臓に負担をかける病気であり、治療薬の中には腎機能によって使用できないものや、用量調整が必要なものがあります。腎臓専門医が在籍する当院では、腎機能を定期的に評価し、腎臓に優しい薬剤選択を心がけています。 - 心血管イベント抑制効果
近年、一部の糖尿病薬には、心筋梗塞や脳卒中といった心血管イベントのリスクを低減する効果が報告されています。患者様の心血管疾患のリスクを評価し、合併症予防にも配慮した治療を行います。 - 患者様の負担軽減
服用回数や飲みやすさなども考慮し、患者様が無理なく治療を継続できるよう、ご希望やご意見を伺いながら最適な薬剤を検討します。
当院では、患者様一人ひとりの糖尿病の状態や合併症の有無、ライフスタイルなどを考慮し、最適な薬剤を適切に選択しています。
注射のGLP-1受容体作動薬の治療
GLP-1受容体作動薬は、腸から分泌されるホルモンであるGLP-1(グルカゴン様ペプチド-1)の作用を強める薬です。膵臓にはGLP-1が作用する受容体があり、この受容体が活性化されることによって、血糖値の上昇に応じてインスリンの分泌を促進し、血糖をコントロールします。また、胃の働きを抑えることで食欲を減少させ、体重過多が糖尿病の悪化に影響していると思われる方に用いることがあります。
GLP-1受容体作動薬には週1回の注射型や毎日使用するタイプがありますが、最近では週1回の持続型が主流となっており、当クリニックでもほぼ全例週1回の製剤を使用しております。
主なGLP-1受容体作動薬
- デュラグルチド
週1回の注射製剤で、血糖値を安定させる効果に加えて、体重減少効果がマイルドなのが特徴です。当クリニックでは、ご高齢であまり体重を減らしたくない方に用いることが多いです。他のGLP-1受容体作動薬と比較して副作用が少ない傾向もあります。 - セマグルチド
週1回の注射製剤で、血糖値の急激な上昇を抑えるとともに、体重減少効果が期待できます。食欲を抑える作用があるため、過食を防ぎ、体重減少につながります。さらに、心血管疾患のリスクを軽減することや、腎機能悪化のリスクを抑えることが報告されており、特に肥満を伴う2型糖尿病の患者さんに適しています。 - チルゼパチド
週1回の注射で、体重減少効果と血糖値の改善効果が期待できます。GLP-1受容体作動薬の中でも、特に体重コントロールが必要な患者さんに対して有効な選択肢となります。
GLP-1受容体作動薬のメリット・デメリット
メリット
血糖値の上昇を抑えながら、低血糖リスクが少ないことが大きな特徴です。また、体重減少の効果が期待でき、週1回の注射で継続しやすいという利点もあります。
デメリット
注射薬のため、慣れるまで心理的なハードルがある方もいらっしゃいます。また、吐き気や胃の不快感などの消化器系の副作用が出ることがありますが、多くは一時的なものです。
これらの薬は単独で用いられることもあれば、複数を組み合わせて使用することもあります。当院の糖尿病専門医が、患者様の血糖値、合併症の有無、生活習慣などを総合的に判断し、適切な薬物療法を提案いたします。
3. インスリン療法
1型糖尿病では、膵臓のβ細胞が破壊され、インスリンがほとんど分泌されないため、インスリン注射によるインスリン療法が不可欠です。2型糖尿病でも、食事療法や運動療法、内服薬での治療が不十分な場合や、重度の高血糖、急性合併症(糖尿病ケトアシドーシス、高浸透圧高血糖昏睡)の場合に、インスリン療法が必要となることがあります。インスリン療法は、血糖コントロールを改善し、合併症を予防するために、非常に有効な治療法です。
インスリン製剤の種類
インスリン製剤は、患者様の生活スタイル、血糖コントロールの状態、食事パターンなどに合わせて、最適な製剤を選択します。効果の持続時間によって様々な種類があります。
- 超速効型インスリン
食直前や食後に注射し、食後の血糖値の急上昇を抑えます。 - 速効型インスリン
食前30分ほど前に注射し、食後の血糖値上昇を抑えます。 - 混合型インスリン
速効型と中間型(または持効型)を組み合わせたもので、1日に数回の注射で対応できます。 - 中間型インスリン
緩やかに作用し、効果が約半日持続します。 - 持効型インスリン
24時間近く効果が持続し、基礎インスリンを補います。
インスリンの投与方法
インスリンは通常、専用のペン型注入器を使って、患者さんご自身で皮下注射を行います。初めての方でも、看護師が注射の手順や保管方法、低血糖時の対処法などを丁寧に指導いたしますのでご安心ください。
インスリン療法が必要になるケース
インスリン療法は、以下のようなケースで必要となることがあります。
1型糖尿病
1型糖尿病は、膵臓のインスリン産生細胞が破壊されることでインスリンがほとんど分泌されなくなるため、生命維持のためにインスリンの補充が不可欠です。
2型糖尿病
- 経口薬やGLP-1受容体作動薬などの他の治療法で血糖コントロールが十分できない場合
- 膵臓の機能が著しく低下している場合
- 血糖値が著しく高い場合(シックデイや緊急時)
- 腎機能障害が進行している場合
- 妊娠中・授乳中の糖尿病患者さん
- 重篤な合併症を予防したい場合
当院では、患者さんの生活スタイルや血糖変動パターンに合わせて、最適なインスリンの種類や注射回数、量をきめ細かく調整し、より良い血糖コントロールを目指します。
4.FreeStyleリブレ
より快適で継続しやすい血糖管理のために、持続グルコース測定器(CGM)であるFreeStyleリブレ(フリースタイルリブレ)の導入と指導を行っています。
当院では、FreeStyleリブレを通じて、患者さんと医師、看護師、栄養士が連携し、チームとして血糖コントロールに取り組む体制を整えています。
FreeStyleリブレとは?
FreeStyleリブレは、上腕に小さなセンサーを装着し、リーダーをかざすだけで、血糖が上昇・下降しているトレンドをリアルタイムで把握できるシステムです。
頻繁な指先穿刺(せんし)の必要がないため、測定時の痛みが軽減され、負担が大幅に少なくなります。さらに、食事や運動、睡眠など、日々の生活が血糖値にどのような影響を与えているかをグラフで「見える化」して確認できる点も大きな特長です。リアルタイムなデータを活用することで、医師や管理栄養士は、患者さん一人ひとりの生活パターンに合わせた、より具体的で的確な食事・運動のアドバイスを行うことが可能になります。
FreeStyleリブレの保険適用について
インスリン療法を行っている患者さんは、基本的に保険診療の対象となります。
ただし、ご加入されている健康保険の種類(国民健康保険、協会けんぽ、各種組合健保など)や、インスリン以外の治療法などによって保険適用となる基準や補助体制が異なる場合があります。
5. 当院での糖尿病治療
名古屋市西区に位置するリウゲ内科小田井クリニックは、開業40年以上の歴史を持ち、地域医療に貢献してまいりました。当院では、糖尿病専門医と腎臓専門医が連携し、最新の治療ガイドラインに基づいた専門医療を提供しています。患者様の病状や生活背景を深く理解した上で、最適な治療計画を立案しています。
糖尿病治療の要となる食事療法では、管理栄養士が患者様一人ひとりに合わせた具体的なアドバイスを行い、看護師を含めたチーム医療で皆様の健康を総合的にサポートします。私たちは、患者様が安心して治療を継続できるよう、通院しやすい環境と丁寧な説明を心がけています。
血糖値が高いと指摘された方、過去に治療を中断してしまった方など、糖尿病に関するどんなお悩みでも、どうぞお気軽にリウゲ内科小田井クリニックへご相談ください。皆様の健やかな未来のために、私たちは誠心誠意サポートさせていただきます。
文責:リウゲ内科小田井クリニック 副院長 龍華章裕
