エンパグリフロジンが慢性腎臓病における体液過剰などに与える影響
今日も、SGLT2阻害薬(の中でも、エンパグリフロジン、商品名:ジャディアンス®︎)についてです。慢性腎臓病(CKD)患者さんは、体液(体の水分量)過剰になっていることが多いのですが、この論文はエンパグリフロジンはそれを改善させるかについて、EMPA-KIDNEY試験のサブ解析になります。
背景:慢性腎臓病(CKD)は、バイオインピーダンス分光法により推定可能な体液過剰と関連する。我々は、CKD患者において、ナトリウム-グルコース共輸送体2(SGLT2)阻害剤がバイオインピーダンス由来の「Fluid Overload(体液過剰)」および脂肪量に与える影響を評価することを目的とする。
方法:EMPA-KIDNEY試験は、CKDが進行するリスクのある患者を対象に、エンパグリフロジン10mgを1日1回投与する二重盲検プラセボ対照試験である。本試験のサブスタディにおいては、無作為化時および2か月後、18か月後のフォローアップ訪問でバイオインピーダンス測定を主要試験手順に追加した。サブスタディの主要アウトカムは、絶対的な「Fluid Overload(体液過剰)」の研究平均差(細胞外水分の過剰の推定値)であり、混合モデル反復測定法を用いて分析した。
結果:サブスタディの660名の参加者は、6609名の試験参加者の全体をおおむね代表している。サブスタディのベースラインにおける平均絶対「Fluid Overload」は0.46±1.7リットルであった。プラセボと比較して、エンパグリフロジンを割り当てられた群の全体平均絶対「Fluid Overload」の差は−0.24リットル(95%信頼区間 [CI]、−0.38から−0.11)であり、2か月後および18か月後、ならびに事前に指定されたサブグループでも同様の差が認められた。全体の体水分の差は、細胞外水分の群間差−0.49リットル(95% CI, −0.69から−0.30、−0.24リットルの「Fluid Overload」差を含む)および細胞内水分の−0.30リットル(95% CI, −0.57から−0.03)の差から成り立っている。エンパグリフロジンがバイオインピーダンス由来の脂肪組織量に与える有意な影響は認められなかった(−0.28 kg [95% CI, −1.41から0.85])。群間の体重差は−0.7 kg(95% CI, −1.3から−0.1)であった。
結論:広範なCKD患者において、エンパグリフロジンはバイオインピーダンス由来の体液過剰推定値の持続的な減少をもたらし、脂肪量に対しては統計的に有意な影響を与えなかった。
◾️コメント
SGLT2阻害薬の薬効は、尿から糖とNaを捨てて、それにより血糖を改善させつつ尿量を増やすことにあって、ラットの5/6腎摘モデルではその作用が減弱していることが報告されている[Sci Rep. 2017 Aug 25;7(1):9555.]ことから、CKDでは体液量を減らす効果は減弱しそうなものですが、この結果ではeGFRで層別化しても体液量を減らす効果はほぼ同等だったようです。心血管イベントを減らす上で、体液量を減らすというのが重要なファクターと考えられているので、腎機能が悪くなっても一律に体液量を減らせていることが、SGLT2阻害薬が腎機能が悪くなっても心血管イベントを減らせているのではないか、と考察されていて勉強になりました。
そして、一般的に、SGLT2阻害薬は脂肪を減らしますが、この報告では両群での有意差はつきませんでした。考察には特に記載されていないように思いますが、上記のようにCKDでは糖を捨てる効果が減弱しているので、それによる異化亢進作用も減弱しているということでしょうか?
当クリニックでは、この試験でも用いられたバイオインピーダンス法を用いて、体液過剰を計測できます。腎機能が悪い人に測定すると、細胞外液率は大体高い印象ですが、目に見えない浮腫も悪影響を及ぼしている可能性があるので、このような機械を用いて注意していかなければなりませんね。
愛知県名古屋市西区
リウゲ内科小田井クリニック
副院長 龍華章裕 (総合内科専門医、日本腎臓学会専門医、日本透析医学会専門医)