浮腫の鑑別に重要なこと
今日は浮腫についてです。
自分が腎臓内科という学問を選択したのも、体の水分量やミネラル異常の問題に大きな興味を持ったからというのが大きく、浮腫の診療には特に力を入れたいと思って、InBODYも迷いなく導入しました。
過去に医者向けの雑誌ではありますが、仲間たちと体液量や利尿薬についてまとめたりもして、今も利尿薬の単行本(これも医者向けですが)を作成中です。それくらい、この分野の診療に興味があります笑
さて、外来で浮腫を見ると、薬の副作用であることが多かったりします。薬の副作用の時は、体の水分量が多くなくても、浮腫を起こしてしまうことが多く、本来であれば中止すれば改善することが多いのですが、意外と診断をつけることが難しいです。現実的には、利尿薬(おしっこを増やす薬)を出して経過を見られてしまうことが多いのですが、そうすると脱水になって腎機能が悪化してしまいます。これを処方カスケードと呼んだりしていて、最近問題になっています。
今回は、体液量が増えてしまう慢性心不全という病気と、薬剤性浮腫を含めた末梢性浮腫の鑑別にBNPというマーカーが使えるのではないかという話です。
背景: 慢性的な末梢浮腫は高齢患者において頻繁に見られ、その原因は多岐にわたることが多い。
目的: 慢性的な末梢浮腫の原因診断において、B型ナトリウム利尿ペプチド(BNP)血漿濃度の測定が役立つかどうかを調査する。
方法: 本研究は、慢性期および長期ケアを提供する老年医学病棟に入院中の75歳以上の慢性的な末梢浮腫を有する患者を対象とした横断的観察研究である。対象は呼吸困難を呈していない連続患者であった。既往歴、身体検査、一般的な生化学検査、胸部X線検査をもとに、2名の研究者が浮腫の原因を特定し、特に慢性心不全の認識に重点を置いた。この基準診断は、医療記録に記載された臨床診断と比較された。BNPの血漿濃度は研究者の訪問後すぐに測定された。
結果: 対象患者141名(女性113名、男性28名、平均年齢86±6歳)のうち、単一の原因が特定されたのは53名(38%)、複数の原因が特定されたのは84名(60%)であった。主な原因は静脈不全(69%)、慢性心不全(43%)、低タンパク血症(38%)、薬剤性浮腫(26%)であった。慢性心不全は担当臨床医によって頻繁に誤診されており、18例で見逃され、14例で誤って診断されていた。BNP濃度は慢性心不全を有する患者で有さない患者よりも有意に高かった(中央値〔四分位範囲〕490〔324-954〕pg/mL vs 137〔79-203〕pg/mL、P<0.0001)。受信者動作特性(ROC)曲線の解析では、274pg/mLが慢性心不全を診断する適切なカットオフ値であり、特異度0.89、感度0.82であった。このカットオフ値を超えるBNP濃度は、慢性心不全の診断と有意かつ独立した関連を示した。
結論: 慢性的な末梢浮腫を有する高齢患者において、慢性心不全は頻繁に誤診されるが、BNP血漿濃度の測定はこの疾患の診断を改善し、慢性心不全の特定に役立つことが示された。
◾️コメント
昔から、意識的に、浮腫の鑑別にこういった生化学データを使うようにしてまして、実践的にもすごく使えるなという印象を持っていました。当クリニックにも浮腫の患者様は多くお見えになることが多く、このような知見をしっかりと活かして診療しています。お困りの方は受診ください。
愛知県名古屋市西区
リウゲ内科小田井クリニック
副院長 龍華章裕 (総合内科専門医、日本腎臓学会専門医、日本透析医学会専門医)